前回の記事。
akiyuki2119067018.hatenablog.com
以前エンジンを乗せ換えて80ccになったタウンメイト。
馬力が上がって利便性が増したので最近は父の通勤用&遊び用バイクになっている。
3000円で買ってきた時は、1年くらい乗ったら捨てようなどと思っていたものだが、今ではすっかり日常の足として重要な役割を果たしている。雨の日でもあまり気にせず乗れて、なおかつロクに面倒を見なくても基本的にはどこも壊れる気配がない。
そんな週末のある日、「メイトがぶっ壊れた」と出先の父から突然電話が掛かってきた。どうも4速60km/hで巡行中、操作を誤って4→N→1とギアを変えてしまい、その瞬間エンジンが悲鳴を上げて絶命したらしい。いつかやると思っていたが、ついにその時が来たのだなと思った。
タウンメイトに限らずロータリーミッションを採用している原付のいくつかは4速(3速)からシフトペダルを二回踏むとニュートラルを通過してそのまま1速に入ってしまう。この時、60km/hで動いている車体に1速の強力なエンジンブレーキがかかることになるが、後は想像に容易いだろう。
エンブレが勝った場合は60km/hから大転倒、負けた場合はクランクが通常あり得ない回転数で回り、その動きに追いつかなかったバルブがピストンにヒットして欠ける、もしくはひん曲がる、またはピストンが焼き付くなどしてエンジンが壊れるのである。
現場までメイトを取りに行くと、民家の庭の脇に静かに置いてあった。
哀れなメイト。
こういう故障をした時はむやみにあちこち触るのはやめたほうが良いに違いないが、どうしても気になったのでその場で症状を軽く確認した。当然転んだものと思っていたが、どうやら転倒は免れたらしい。外装までやられると流石にもう直す気力がなくなるのでその点は助かった。
問題の圧縮を確認する。バルブが割れて燃焼室内に落ちているかもしれない、もしくはピストンが欠けて破片がどこかに挟まっているかもしれないという懸念をしつつも、手でキックペダルを押し下げる。
「スッカスカ」である。
プラグを付けないでキックをした時以上にスカスカである。
これは間違いなくバルブが逝っている。ただ、何か擦れるような音や引っ掻くような音などは一切なく、圧縮が無い点を除けば全く健康そうな感じだった。最悪焼き付きを起こしているかもしれないと思っていたが、スムーズに動くのでその心配はなさそうである。
とにかく、軽トラで家まで持って帰ることにした。どういう話の流れでこうなったか忘れたが、近くの鉄くず屋に売っていた行灯カブまで持って帰ることになった。
ガレージに搬入後、分解してどこがどう壊れたのか確認する。
とりあえずキャブレターとマフラーを取り、エンジンを分解していく。
以前、50ccメイトのピストンリングを交換したことがあるので大体の構造は分かる。
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ヘッドを取った図。
ピストン。幸いにも目立った傷や凹みは一切なし。
バルブ側。一見普通。どこが壊れたのかわからない。
どこが悪いのか分からなさ過ぎて一回元に戻した。
キックペダルを押し下げてみると、やっぱり圧縮が無い。なのでやはりどこかがおかしい。
再びヘッドを外して吸排気のポートにそれぞれパーツクリーナーを溜めてみた。バルブがおかしければ漏れてくるはずである。
吸気側は全く漏れなし。一方の排気側は....ドバドバ出てくる...一見大丈夫そうに見えたが歪んでいるようだ。
これで今回の故障箇所は排気バルブだと分かった。幸いにもその他のパーツは無事であるようだ。想像以上に頑丈に出来ている。
早速、部品を注文した。
元々腰上のオーバーホールをしようと考えておりピストンリングやガスケットは買いそろえていたので、今回は排気バルブとついでにステムシールを注文。
生産終了からしばらく経つので純正部品があるか心配だったが、排気バルブは2000円で普通に売っていた。なんとも良心的な価格で助かる。
2日くらいして部品が届いたので作業再開。せっかくなのでピストンリングも交換する。
クリップを外し、ピストンピンを引き抜いてピストンを外す。
5万㎞走っているが割と状態のいいピストン。多少の擦り傷はあるが、再利用。
上のギトギトしたカーボンはガスケットリムーバーで綺麗にした。
何度使っても慣れない、鼻の奥の粘膜が破壊されるようなすごい臭いがする。
シリンダーは下のほうが錆びていた。どうもこの辺りはピストンが触れていないらしい。致命的な傷は無さそうなのでこのまま再利用。
古いガスケットを剥がす。
いつもどれがどれだかよく分からなくなるのだが、メッキがトップリング、刻印がある方が上とだけ覚えておけば大体何とかなる。
リングを付けたらピストンをコンロッドに取り付け、シリンダーに入れていく。
毎回クリップを留めるのに大変苦労する。CDやスーパーカブのに比べてメイトのピストンクリップは硬いのか、なかなか入ってくれなかった。
ピストンリング交換時にはシリンダーのホーニングをしたほうが良いというのを見たことがあるのだが、そんな技術はないのでこのまま使用する。
これでシリンダー側は終了。フライホイールを回してピストンがスムーズに動くかだけ確認。
続いて、ヘッド。
まずはロッカーアームを外すためアームを留めているカラーを引き抜く。カラーの内側にはM8のネジが切ってあるのでそこにボルトを締めこんで引き抜くのだが、これがめちゃくちゃに固い。
以前スーパーカブのヘッドを分解したときは傾けて振れば抜けたのでびっくり。
ペンチで思いっきり引っ張ってもハンマーで叩いても微動だにしないので、汎用ステーとボルトでこういう装置を作った。材料費400円。
ボルトの頭を押さえてナットを締めこむとゆっくりとカラーが抜けていく。
ロッカーアームを取った後、バルブを外す。
これが問題のエキゾーストバルブ。
回してみるとよく分かるが、完全に歪んでしまっている。
バルブ新旧比較。同じ部品と思えないほど見た目が違う。
雑に擦り合わせをする。
ついでにカーボンも落としてきれいにした。
バルブスプリング。多分上下がある....ないかもしれない。
ステムシールを交換したら元に戻していく。
引き抜くのにあれだけ苦労したロッカーアームのカラーは当然入れる時も同じくらい固い。
指で押したくらいでは全く入っていかなかったので写真のようにM8のボルトをねじ込んだ後、ハンマーでぶっ叩いて強引に入れた。
カラーが入るかエンジンがぶっ壊れるかというところだった。しかし他に良い方法が思い当たらなかったので仕方ない。
ロッカーアームが付いたらタペットクリアランスの調整をする。タウンメイトのタペットクリアランスが分からなかったのでスーパーカブの「0.05mm」を参考にしてとりあえずその通りに調整した。
ヘッド取り付け。
スタッドボルトの締め付けトルクもスーパーカブのを参考に「0.9~1.2kg-m」とした。
最後にマフラーやキャブレターを元に戻して完了。
マフラーは錆が浮いてきていたのでピカールで綺麗にして耐熱クリアを吹いた。
完成。
エンジンは問題なく始動。吹け上がりも良好。
腰上の汚れを落とした上にピストンリングやステムシール等消耗品は大体交換したのでむしろ前より調子がいい。トコトコと歯切れのよい乾いた音がして乗っていて非常に気持ちが良い。
今回こそ廃車かと思われたメイトだが、なんとなく直ってしまった。しかし、もう一回同じことをやれば次こそはもう直せないだろう。タウンメイトの80ccエンジンは数も少なく貴重なのだと聞く。今後も通勤快速として長く活躍してもらいたい。
~おしまい~